長編で本当に難しいのは、書き切ることではありません。9万字を越えたあとも、誰がどこにいて、何を約束して、目の色は何だったかを、まだ言えることです。
1冊に1年かければ、記憶は壊れます。これは欠点ではなく、人の頭のふつうの働き方です。問題があるとすれば、壊れた分を道具が引き受けてこなかったほうです。
第6章に置いた伏線は3か月前のものです。忘れたのではなく、いまから遠すぎるだけです。
多くの執筆アプリはフォルダと章をくれます。ただ、全部に目を通したものは1つもありません。設定資料も別のアプリに残ったままです。
構成を動かしたいのに、いまの原稿が壊れるのが怖くて動かせない。動かさないまま、時間だけが過ぎます。
「ここで彼女は本当にこう言うだろうか」と訊けば、答えはあなたの作品の中から返ります。最後のページだけを見た当て推量ではありません。
章をまたいで突き合わせます。目の色が変わった、職業が入れ替わった、時系列が合わない。整合性チェックが場所を示します。走らせるかどうかはあなたが決めます。勝手に始まることはありません。
関係マップ、世界地図、物語の年表、ビートボード。6種類のファイルが原稿と同じプロジェクトに並び、AIはその6種類とも読めます。
バージョン履歴は無料プランにも付きます。AIが手を入れる前にはスナップショットが取られます。1ファイルだけ戻すこともできるので、本ごと巻き戻す必要はありません。
新人賞が見るのは、完結した原稿と、最後まで崩れない整合性です。投稿サイトが見ているのは、続きが来ること。同じ1冊でも、壊れる場所が変わります。連載では伏線が切れ、応募原稿では中盤がゆるみます。
AI ベータリーダーの注意曲線は、後者のためのものです。読者が何章目で離れるかを示します。下読みの手が止まるのも、たいていそのあたりです。
計測を始める前に
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