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個人出版は誰でもできます。読まれるかどうかは、別の話です

T Tim · August 18, 2026 · 約5分で読めます

電子書籍を売り場に並べるところまでは、いまや誰でも、無料で、その日のうちにできます。難しいのはその次です。並べた本を誰かに見つけてもらう手段だけは、いまも無料になっていません。個人出版の判断はほとんど全部、この二つを分けて考えるところから出てきます。

消えた壁と、残った壁

消えたのは流通の壁です。原稿と表紙の画像があれば、午後のうちに販売ページができて、翌日には百か国で買えます。かかるお金はゼロです。

残っているのは「見つけてもらう」ほうの壁で、個人出版の解説の多くは、こちらも一緒に消えたことにして先へ進みます。

最初の刊行でがっかりする理由は、たいていここに集約されます。書き手はインターネットがすでに解いた問題を一生懸命に解いて、それから、インターネットが解かなかったほうの問題に、出したあとで初めてぶつかります。

手元に残るもの

**権利。**全部そのままです。オーディオ、翻訳、映像化のオプション、それから「この本はここまで」と誰かが判断したあとも売り続けられる権利。出版契約のなかで、署名した時点では誰もそこまで気にしていない項目ばかりです。

**時期。**本ができたときに出せます。一年半後でもなく、誰か別の人の刊行計画の都合で決まった枠でもありません。

**値付け。**これは響きよりずっと大きい話です。一巻目を数日だけ下げて、二巻目の動きを見る。それが自分の判断だけでできます。承認をとる相手がいません。

そして読者との距離。読者の連絡先が、売り場ではなく自分の側にあります。

お金の話を、正直に

ロイヤリティの比率は、誰もが引用して、誰もが誤解する数字です。KDPは主要な価格帯で70%、その外では35%を払います。そこからファイルサイズに応じた配信コストが引かれるので、画像の多い本は書き手の予想より手取りが減ります。価格帯の外に出ると、高い値付けと安い値付けで手取りがほとんど変わらない、ということも起こります。条件は変わります。最新のものを自分で読んでください。三年前の記事を信用しないでください。この記事も含めて。

比較対象として、商業の電子書籍はおおむね正味の25%前後です。しかも先に印税相当分を回収するまで、次の一円が来ません。

一冊あたりの計算は個人出版が大きく有利で、その有利さこそが「見つけてもらえない」ことの代償を高くします。ゼロの70%はゼロです。出版社が売っているのは棚と書評と営業で、正直な問いは「どちらの取り分が多いか」ではありません。それがなくて読者に届くのか、です。

ちゃんとやると、何にお金がかかるか

**編集。**いちばん削られて、いちばん削ってはいけない項目です。構成を見る仕事と文章を整える仕事は別で、腕のいい校正者でも構成の穴は直しません。

**ジャンルが伝わる表紙。**美しさを競う項目だと思われがちです。実際に効いているのは、読者が半秒で「これはどういう本か」を判別できるかどうかです。ジャンルの信号を外した表紙は、弱い第一章より確実に刊行を殺します。

**組版。**根気しだいで、安くも無料にもなります。

そのあとに、上限のない項目が来ます。宣伝、ずっと。これが本当の費用で、お金ではなく時間で払います。

連載は、計算式そのものを変えます

日本語圏には、ほかの市場にないものがあります。小説投稿サイトです。

一話ずつ出して読者が積み上がっていく形は、「見つけてもらう」問題の一部をサイト側が肩代わりしてくれます。ランキングと感想と評価が、書いている最中に読者との関係を育てます。書き上がってから宣伝を始めるのとは、順番が逆になります。

効くのは、そのジャンルに連載を読む習慣があって、更新の速度を保てるときです。異世界もの、恋愛もの、続きが気になる構造を持つもの。効きにくいのは、面白さが全体の構造にあって最後まで読まないと見えない作品と、一年間ペースを約束できない人です。三週間止まった連載が失った読者は、だいたい戻ってきません。

交換条件は本物です。掌握できる範囲と収入の一部を渡して、お金では買えない「見つけてもらう」を受け取ります。

その読者名簿は、誰のものですか

ここが日本語圏でいちばん見落とされます。

売り場もサイトも規約を変えます。表示の順番も、独占の条件も変わります。変わらないのは、あなたの次の作品を待っている読者の一覧です。

問題は、日本の書き手が持っているその一覧が、たいていサイトの中にあることです。お気に入り登録も、フォロワーも、借りている名簿です。サイトが方針を変えた日に、あなたの側には何も残りません。

直販にすれば取り分は増えて、名簿は自分のものになります。かわりに決済、配信、税、海賊版、問い合わせ対応が全部あなたの仕事になります。そのどれも執筆ではありません。

独占と引き換えに提示されるのは露出です。読み放題に入る代わりに、一定期間ほかで売らない。この形が典型です。これは本物の取引で、割に合うかどうかは、あなたの読者がもともとそこにいるかどうかで決まります。信条で決める話ではありません。自分のジャンルを見て決める話です。

最初の一年に、実際に起きること

ここを書かない解説が多くて、書かないせいで、多くの人が自分は失敗したと結論します。

無名の書き手の一冊目は、うまく出しても初年度の実売が数百部にとどまるのがふつうです。本が悪いからではありません。存在を誰も知らないからで、しかも一冊しかない本は、読み終えた読者を次に送る先を持っていません。

曲線を変えるのは既刊です。同じシリーズが三冊あって一巻目が安い、という状態は、一冊だけの状態とは商品として別物です。一巻を読み終えてその場で二巻と三巻を買う読者、それが仕組みのほぼ全部です。個人出版で魔法に見えることは、たいていこれです。

その時間軸で計画してください。売れた冊数が少なくて、二作目の原稿が書き上がっている一年は、いい一年です。渦中にいると、まったくそう感じません。

表紙を選ぶ前に決めること

これはシリーズか単発か。ここで、ほかの決定のほとんどが変わります。

そのジャンルの読者は、投稿サイトにいるのか、売り場にいるのか、両方か。

次を書けるか。「書きたい」は答えになりません。二作目がいま、何らかの形で存在しますか。存在しないなら、一冊目はしばらく一人で置かれます。七か月目に気づくより、先に知っておくほうがいい種類のことです。

どれも道具の選択とは関係がありません。そして全部、たいていの人が最初に手をつけること、つまり表紙を選ぶより前に、決めておく価値があります。

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