手元のキャラクターシートを開いて、主要な登場人物を1人選んでください。直近の10話を書くあいだに、実際に開いた欄はどれでしたか。 たぶん身長でも瞳の色でもありません。開いたのは「この人は今どこまで知っているのか」と「そのことを第何話で、誰に言ったのか」のほうです。設定資料が働き始めるのは第80話あたり、キャラクターを作った日からずいぶん離れた場所です。長い連載を生き延びる6つの欄と、最初は空のままでいい欄を分けて見ていきます。
たいていの設定表は顔から埋まる
新しいキャラクターシートを開いて最初に埋まるのは、身長、髪の色、瞳の色、好きな食べ物。すぐ埋まります。埋まると、今日は仕事をしたという感じになります。
80話まで書いて、この欄を開き直した回数はせいぜい2回でしょう。瞳の色くらいは、手が勝手に覚えています。
段落の途中で手が止まるのは、別の種類の問いです。
- この人物は、主人公の正体をもう知っていたか。
- そのことを第何話で、誰に話したか。
- この2人が初めて会ったのはいつか。
外見の欄は、どれ1つ答えてくれません。しかもこの3つは、間違えると書いた本人より先に読者が気づきます。カクヨムの感想欄には、第12話の細部を作者より正確に覚えている人が必ずいます。
連載を生き延びる6つの欄
1. 呼び方の一覧
流通している呼び方を全部書き出します。主人公は何と呼ぶか。敵役は何と呼ぶか。本人は自分を何と呼ぶか。
呼び方が変わった話は、たいてい関係が変わった話です。『ハリー・ポッター』で「例のあの人」と言う登場人物と、ヴォルデモートと名前で呼ぶ登場人物は、その一語だけで立ち位置が分かれます。だからこの欄は、設定というより関係の年表に近い形になっていきます。
2. 知っていること/まだ知らないこと
いちばん大事な欄で、配布されているテンプレートにはまず入っていない欄でもあります。
情報が届く時刻は、キャラクターごとに違います。読者が第20話で知ったことを、当人は第37話まで知りません。この時差が緊張感の正体です。ヒッチコックがテーブルの下の爆弾で説明したのも、結局は誰が何を知っているかの配置でした。頭の中だけで時差を管理すると、必ずずれます。しかも、ずれたことに気づくのはたいてい、その人物に長い台詞を書かせた後です。
1行ごとに話数を添えてください。「第37話から知っている」は、「知っている」の百倍役に立ちます。
3. すでに口に出したこと
誰に、第何話で。秘密で動く物語なら、この欄だけで設定表の半分を占めます。
4. 口で言う望みと、本当の望み
口で言う望みは、食卓で本人が口にする目標です。本当の望みは、当人がまだ自分に認めていないものです。キャラクターはこの2つのすき間で動き始めます。
この欄を開く回数は多くありません。ただ、最近この人物を書くと平板になると感じたら、原因はだいたいここに座っています。2つの望みが一致してしまった人物は、そのまま説明役になります。
5. 何が変わったか、第何話から
人は変わります。厄介なのは、変わって3話たっても、まだ前の口調で書いてしまうところです。
列は2つで足ります。何が変わったか、第何話からか。
6. もう書いてはいけないこと
引っ込めた過去設定。序盤の10話だけ使って捨てた口癖。結局ほかの人物のものになった仕草。
行を消すのではなく「使わない」と書き足しておきます。消してしまうと、なぜ引っ込めたのかも一緒に消えて、半年後にもう一度同じものを発明することになります。
空のままでいい欄
- センチ単位の体格データ。 168センチと決めたとして、その数字が本文に出ることはありません。
- MBTI、星座、血液型。 人物を要約したように見えますが、次の場面でこの人が何をするかは教えてくれません。
- 完全な幼少期の年表。 本文に届く2つか3つだけ残せば十分です。残りは書いている途中で勝手に育ちます。
どれも、それ自体が悪いわけではありません。ここに使った時間が、あとで第2欄の空白という形で返ってくるだけです。
連載だけが抱える問題
単行本なら、全部読み返してから直せます。読者が手に取るのは直したあとの版です。連載にその機会はありません。投稿した話は投稿したままです。なろうやカクヨムなら後から本文を差し替えられますが、第40話の時系列がおかしいと感想欄に書いて離脱した読者は、読み直しに戻ってきません。KDPで改訂したファイルを上げても、すでに読み終えた人は再ダウンロードしません。メールで新着を配信していれば、送信済みの本文はもう直せません。
だから連載の設定表は、設計図というより「確定した事実の記録」に近い場所にあります。まだ書いていないことは書かなくてかまいません。すでに公開したことは必ず書きます。
基準は1つです。読者がまだ読んでいないことは、設定表に入れません。
そのままコピーして使う形
名前:
呼び方
- 主人公からの呼び方:
- 敵役からの呼び方:
- 自称:
知っていること(第何話から):
まだ知らないこと:
口に出したこと(誰に/第何話):
口で言う望み:
本当の望み:
変わったこと(何が/第何話から):
もう書かないこと:
1人11行。これより長くすると、次の話の締切の日には開かなくなります。
世界観の資料も同じ原則で整理できます。本文に出たものだけ記録して、残りは待たせておきます。対応する欄の一覧は世界観整理表:第30話でもまだ使える7つの欄にあります。
30話ごとに10分
いつでも全部を正しく保とうとしなくて大丈夫です。だいたい30話おきに、主要な5人を並べて、2つだけ確かめます。
- 第2欄の「まだ知らないこと」に、本当はもう知っていることが残っていないか。
- 本文で口に出したのに、第3欄に入っていないことはないか。
この2つがずれたとき、読者は「この人物は様子がおかしい」とは読みません。「作者が忘れている」と読みます。没入が切れるのはその一文です。
原稿とキャラクターの資料が同じ作品の中にあれば、AIに両方を一度に見せられます。Slimaなら、人物ごとのノートを.mdファイルとしてファイルツリーのフォルダに置いて、章と並べておけます。そのうえで AI コーチ に「第37話の時点でこの人は何を知っているか」と聞くと、本文と照らし合わせた答えが返ってきます。設定表に書いていないことは、AIも知りません。覚えておくのを手伝うだけで、決めるのは書く人です。
この方法が効かなくなるところ
登場人物が増えると、この形式は重くなります。名前のある人物が30人いる群像劇なら、この密度を保つのは5人までにして、残りは「呼び方」と「知っていること」の2欄で足ります。
それと、設定表は矛盾を防いでくれません。矛盾を作ってから見つけるまでの距離を縮めるだけです。第80話まで一度も矛盾なく来られる人はいません。違いは、次の話を投稿する前に自分で気づくか、感想欄で読者に気づかれるかだけです。
