「あの設定、どこに書いたっけ」で20分溶ける。これは記憶力ではなく、置き場所の問題です。やることは4つ。設定は原稿と同じ場所に置く。3か月後に自分が検索窓へ打ち込む言葉を、そのまま題名にする。同じ事実は1か所にだけ書く。そして初出の話数を書き添える。判定はいたって雑で、それで十分です。小さいことを1つ調べて、時間を測ってください。2分たっても出てこないなら、置き方が間違っています。
長編の後半で、設定が消えることはめったにありません。見つからなくなるだけです。この記事は置き方の話に絞ります。世界を面白く作る技術は、これとは別の話になります。
第40話あたりで設定が引けなくなる理由
原因はだいたい3つに収まります。
設定が3か所に散っている。 一部はノートアプリの中にあります。一部は深夜に原稿へ直接書き足した括弧書きです。残りは半年前に書き仲間と交わしたチャットのログの中です。書いた時点では、どれも理にかなっていました。3つ並べた瞬間に、どれが現行なのか誰にも言えなくなります。
題名が分類名になっている。 「勢力と政治」というファイルを作ったとします。ところが第41話で必要になるのは、北の辺境にいる公爵の名前です。分類名は、書いているときの頭から出てきます。検索語は、焦っているときの頭から出てきます。この2つが一致することは、ほとんどありません。
同じ事実を2回書いて、2つが食い違っている。 これは見つからないより厄介です。理由は単純で、見つかってしまうからです。古いほうを引き当てて、そのまま第28話に書く。気づくのは、たいてい読者に指摘されてからです。
原則1:設定と原稿を同じ住所に置く
分けて置く代償は、ウィンドウが1枚増えることではありません。調べるのをやめてしまうことです。 執筆は抜け出したくない状態です。だから確認のたびに別のアプリへ切り替える構造にしておくと、人は賭けを始めます。「たしか第7話。このまま進めて、改稿で拾えばいい」。設定の齟齬は、その賭けを1回目に選んだ時点で始まっています。忘れたせいではありません。
同じ場所というのは、1本のファイルツリーと1つの検索窓のことです。道具は自由に替えてかまいません。Scrivener、テキストファイルを入れただけのフォルダ、Slima。固定しておくべきなのは条件のほうです。
Slimaはこの条件をファイルツリーで満たします。設定ノートに専用の形式は要りません。原稿も設定も同じ.mdで、フォルダに分けて置くだけです。同じ木の中には、関係マップの.map、世界地図の.geomap、年表の.timeline、ビートボードの.beatsも並びます。脚本の.scriptも同じ木に置けます(レイアウトは台湾式とハリウッド式の2つで、日本式の柱書きには対応していません)。
原則2:3か月後に検索する言葉を題名にする
ファイル名を打つとき、自分に1つだけ質問してください。3か月後にこれを探すとして、自分はどんな言葉を打つだろうか。
- ❌ 勢力と政治 → ✅ 北の貴族、誰が誰か
- ❌ 魔法の仕組み → ✅ 魔法を使うと何を失うか
- ❌ キャラクター設定:ミナト → ✅ ミナトが実家に帰りたがらない理由
3つ目はわざと不格好にしてあります。探しにいくとき頭の中にあるのは、その不格好な一言だからです。整った分類名のほうは出てきません。題名は整っている必要がありません。焦ったときの自分の語彙と一致していれば、それで役目を果たします。
原則3:1つの事実に、家は1つ
「ここが正しい」と言える場所を、1か所だけ決めます。ほかの場所からは、そこへリンクします。誰も複製しません。
複製が保険に見えるのは最初の1週間だけです。そのあと2つは別々に編集され、少しずつずれます。手元に残るのは、バージョン2つと答え0個です。見分け方も簡単です。「この2つ、どっちが新しいんだっけ」と考えた瞬間に、もう分裂しています。
人物どうしの関係のように、複製したくなる情報ほどリンクが効きます。Slimaでは関係マップの.mapがその役を持ちます。それぞれの人物ノートに「弟は誰々」と書き写す代わりに、2人のあいだに線を1本引きます。プランによる制限はありません。無料で使っている人も同じように作れます。
原則4:最初に出てきた話数を書き添える
いちばん飛ばされていて、いちばん元が取れる1行です。
設定ノートはたいてい内容を書きます。その剣の名前、打った鍛冶師、何ができるか。ところが第34話で手が止まるときの問いは、位置の問いです。この剣が最初に出たのは何話目か。 確認したいのは剣の性能ではありません。読者がいまどこまで知っているか、です。
ノートの末尾に「初出:第7話」と1行足すだけです。維持の手間はほぼゼロで、20分さかのぼる作業が2秒の確認に変わります。いちばん効くのは伏線です。舞台に銃を掛けたなら撃たなければならない、とアントン・チェーホフは書きました。初出を記録していない伏線は、掛けた場所を忘れた銃です。
設定を作らないほうがいいとき
設定作りには中毒性があります。しかも執筆によく似ているので、執筆を避ける手段として非常に優秀です。
使える基準を1つ挙げます。同じことを2回目に探したとき、初めてノートにする。 1回目に探すのは偶然です。2回目は、これからも探し続けるという合図です。それまでは原稿の中に書いておけば足ります。
世界が完成していることと、物語が面白いことは、別の達成です。トールキンは言語から中つ国を作りましたが、それでも『指輪物語』は別に書かなければなりませんでした。整理は行き詰まりを防ぐだけで、作品そのものをよくはしません。
この表をそのまま使ってください
1つのノートに5欄。この先は全部おまけです。
| 欄 | 入れるもの | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 検索語 | 3か月後に自分が打つ言葉 | 題名がそのまま検索の窓口になります |
| 一行定義 | 1行で言い切る | 確かめたいのは1点で、読み物は要りません |
| 初出 | 何話目か | 読者がいまどこまで知っているかが分かります |
| 破れない規則 | この設定が絶対に破れない制約 | 後半でいちばん先に壊れるのがここです |
| リンク | 関連ノートを指す。貼り付けない | 版を1つに保てます |
40項目のキャラクター質問票は埋まりません。5項目なら埋まります。
これで解決しないこと
これが解決するのは「見つかるか」だけです。「覚えていられるか」は別の問題で、「その世界が読んで面白いか」はもっと別の問題です。退屈な設定は、どんなフォルダ構成に入れても退屈なままです。
短い作品では、ほとんど意味がありません。10万字までなら、たぶん本当に覚えています。維持の手間のほうが高くつきます。この記事が効くのは、第20話まで来ていて第60話まで行くつもりの人です。小説家になろうやカクヨムで毎週更新していて、いずれKDPでまとめたいと思っている人にも効きます。
Slimaは設定、本文、バージョンを1本のファイルツリーに置きます。だから調べものはノートアプリへ出ていく必要がなく、検索1回で終わります。有料で使っている人に「どの機能がいちばん手放せないか」と聞くと、AIより先に構造の話が返ってきます。試してみる。