設定資料は、項目が多いほど使えるようになるわけではありません。増やすほど死にます。執筆中に本当に見返す項目だけを残し、一つひとつに「初出は第何話か」を書き添える。40項目のシートは最初の数行で更新が止まります。7項目のシートは30話目でも開かれています。
この記事で扱うのは、すでに思いついた設定をどこに置くかという問題です。連載が14週目に入っても引き出せる形にしておく話であって、世界観そのものをどう発想するかは別の話題になります。
なぜ多くの設定資料は3話目で開かれなくなるのか
シートを作っているとき、頭の中にあるのは「書き留める」という動作です。ところが実際に開くときにやっているのは、ほぼ「探し出す」という動作です。二つは逆を向いています。書き留めるほうは全体を見渡して分類したがり、探すほうは一点だけを名指しで欲しがる。整理の都合で組み立てた表が、探す道具としては驚くほど使いにくいのはそのためです。
放置された設定資料には、だいたい三つの共通点があります。
項目名が分類名になっている。 「魔法:制約と代償」という見出しを作ったとします。三か月後、頭に浮かぶ言葉のほうは「二階梯の契約って代償いくらだっけ」です。分類名は整理する側の言葉で、検索語は探す側の言葉です。この二つはめったに一致しません。見出しは分類のためではなく、三か月後の自分が打ち込むであろう語で付けてください。
同じ事実が二か所に書いてある。 見つからないより厄介です。両方見つけたあと、どちらが新しいのか判断する手がかりがありません。片方を消す踏ん切りもつかないまま、二つとも残ります。
原稿と設定が別のアプリにある。 原稿はカクヨムの下書き画面、設定はNotionの別ページ。確認のたびにウィンドウを切り替えるなら、そのうち確認しなくなります。「たぶん第7話で出したはず」と思いながら、指は止まりません。設定の食い違いは、その0.5秒のあいだに生まれます。
残す価値のある七つの項目
| 項目 | 何を書くか | なぜ場所を割く価値があるか |
|---|---|---|
| 検索語 | 三か月後の自分が検索窓に打ち込む言葉 | 見出しがそのまま検索の入口になる |
| 一行定義 | 一文だけ。開いた瞬間に確認できる長さで書く | 探している最中は、一つ確かめられれば足りる |
| 初出の話数 | 最初に本文へ出した話 | 読者が今どこまで知っているかの判断材料になる |
| 絶対に破らない線 | この設定が越えてはいけない一線 | 後半でいちばん先に崩れるのがここ |
| 読者の既知範囲 | 本文に出した分と、まだ自分しか知らない分 | 連載にだけ必要な項目 |
| 未回収か | 張ったまま回収していない伏線に印を付ける | ほかのどの項目もこの借金を数えてくれない |
| 関連項目 | ほかの項目への行き先 | 内容そのものを複製しないで済む |
七つが多く見えるなら、上の三つだけで始めても構いません。ただし「初出の話数」は外さないでください。書き足す手間はほぼゼロなのに、返ってくる時間はこの表のどの項目より多くなります。設定を書いた時点と、その設定が本文に出た時点は、たいていずれています。ずれの分だけ、読者が知っている世界は書き手の頭の中より小さい。その差を数字一つで押さえられる項目は、ほかにありません。関連項目を線でつないで眺めたくなったら、Slimaの関係マップ(.map)が使えます。プランによる制限はなく、スマートフォンからでも編集できます。
書かなくていいもの
- 本文に出てこない年表。 構想中はいちばん楽しい作業です。そして執筆中に開くことはまずありません。
- 身長、星座、その人のために組んだプレイリスト。 本文に届かない情報は、シートを重くするだけです。
- 地図の画像。 地図そのものは要ります。ただしシートに埋め込むと読み込みが遅くなり、遅いシートは開かれなくなります。別の場所に置いて、リンクだけ通してください。Slimaでは世界地図が
.geomapという独立したファイルになっていて、設定ノートからは行き先として指すだけで済みます(ベータ機能です。スタイルテーマの切り替えはなく、スマートフォンでは閲覧のみになります)。
判断の基準は一つで足ります。執筆中に二回以上見返したか。 一回なら偶然です。二回見返したものは、この先も必ずまた見返します。書く前に「必要そうな項目」を予想して用意するのをやめて、二回目が起きた設定だけを後から追加していく。この順番にするとシートは太らなくなります。
連載にだけ必要なこと
小説家になろう、カクヨム、少年ジャンプ+。どの連載も同じ前提の上に成り立っています。読者は読み返さない、という前提です。書き手は全体を知っています。読者が見たのは火曜に更新された一話だけで、しかも通勤中のスマートフォンの画面です。完結した一冊をKDPで出すなら読者は前のページへ戻れますが、連載ではその手が使えません。
だから「この設定を読者はもう知っているか」のほうが、「この設定は何か」より切実になります。ブランドン・サンダースンは、魔法で問題を解決したときの満足度は読者がその魔法をどれだけ理解しているかに比例する、と書きました。理解しているかどうかを決めるのは、本文に出した分だけです。頭の中の構想は数に入りません。第22話で伏線を回収するとき、判断を左右するのは読者が何話目で手がかりを見たかです。初出の話数と読者の既知範囲、この二つのマス目が答えてくれるので、記憶に頼らずに済みます。
そのままコピーする書式
検索語:
一行定義:
初出の話数:
絶対に破らない線:
読者の既知範囲:
未回収か:
関連項目:
一項目につき七行で足ります。原稿に新しい設定が出てきたら、そのたびにこのブロックを複製して埋めてください。書き終わってからまとめて入力しようとすると、まず終わりません。
三か月に一度の整合チェック
連載の途中にシート全体を読み返す時間はありません。確認するのは三つだけです。
- 未回収と印を付けた伏線のうち、張ってから十話以上たっているものはありませんか。
- 「絶対に破らない線」に書いた内容を、自分で破っていませんか。
- 同じ内容が二つの項目に書かれていませんか。
三つともシートだけで答えられるはずです。答えるために原稿を開き直したなら、そのシートは仕事をしていません。項目を減らすか、検索語を付け直すか、どちらかの手当てが要ります。
この方法が効かなくなるところ
シートは設定を見つかる状態にします。世界観を面白くはしません。設定が緻密なことと物語が面白いことは別の達成で、両方そろっている書き手は思うほど多くありません。項目が埋まっていく手応えは執筆の手応えによく似ているので、シートの整備そのものが逃避先になることもあります。埋める時間が書く時間を超えたら、それは合図です。
短編には向きません。ある長さまでは記憶だけで足りますし、維持の手間のほうが高くつきます。元が取れ始めるのは、だいたい20話を超えたあたりからです。
Slimaは設定ノートも原稿もスナップショットも同じファイルツリーに置くので、一度確認するためにウィンドウを切り替える必要がありません。使ってみる